ドイツ語学習のおすすめ


 「ドイツ語は英語などと比べて習得が楽だ」などと言っても信用しない人が多いかもしれませんね。格変化は英語よりも多いし、名詞には男性、女性、中性のような「性」があります。そういう意味では確かにとっつきにくいかもしれません。しかし、実際に「聞く」、「話す」ということを念頭においた場合は比較的楽な言語です。音がはっきりしていて聞き取りやすく、また単語と単語の境目がはっきりしています。話すときは、日本語のように、主語以外の要素から話し始めてもかまいません。「人称変化した動詞」と「否定語」以外は日本語と同じ語順だと考えてもいいくらいです。従属節になると、動詞や助動詞の位置すら日本語と同じです。
 1960年代の学生用語はまだドイツ語からの造語がたくさんありました。いわゆる「和製ドイツ語」が頻繁に使われていました。「ドッペる」(落第する、留年する、不合格になる)、「ゲルピン」(無一文)、「シャン」(美人だ)、「ウンシャン」(美人でない)、「バックシャン」(後ろ姿が美しい)、「トテシャン」(とても美人だ)、「メッチェン」(ギャル、女の子)、「キッセン」(キスする)などですが、今ではすでになじみのない単語になっているかもしれませんね。これらは今ではほとんどが英語からの造語に移行してしまっています。「ドッペる」→「ダブる」、「メッチェン」→「ギャル」、「キッセン」→「キス」のように。しかし、一度、比較的大きな国語辞典を引いてみてください。(以前の)学生用語としてちゃんと見出し語としてあげられております。
 今でも「ゲレンデ」、「アイスバーン」、「ストック」、「リュックサック」、「アルバイト」、「ノイローゼ」、「エネルギー」、「ワンダーフォーゲル」、「ヒュッテ」、「ピッケル」、「カルテ」、「クランケ」、「シュプレヒコール」などの語ならば誰でもすぐにわかるでしょう。


 完璧にマスターしようと思ったら何語であってもむずかしい。外国語を完璧にマスターしようなどと思わない方がいいでしょう。そんなことは無理です。そんなことを考えていたら、いつまでたっても使うことなどできないでしょう。完璧主義は習得の敵。習ったらまずは使ってみましょう。外国語は「苦痛の種」としてではなく、「楽しみの源」として気楽に勉強する方がいいと思います。そのためには片言でもいいからまず使えるようになることです。


 ドイツ、オーストリア、スイス、リヒテンシュタインなど、ドイツ語を公用語としている国は案外多いし、ドイツ語の通用する範囲も意外に広いのです。ヨーロッパで英語を日常語として使う国はイギリス以外にどこにあるでしょうか。考えてみてください。イギリスはもちろん英語ですよね。しかし、イギリス以外にどこか思い当たる国がありますか。


 ドイツに限らず、ヨーロッパでの一般の人との会話には英語は使えないと考えた方がいいでしょう。あるいは、「英語圏以外では最初から英語を使うことを避けた方がいい」と言うべきかもしれません。最終的には英語になってしまうとしても、まずは少なくともその国のことばで話すそぶりを見せること。これが現地の人とスムーズに会話をするコツです。ドイツ語圏以外でも、中・東欧地区では英語よりもドイツ語の方が通じやすいとも言われています。
 クラシック音楽の宝庫で使われている言語であるドイツ語を気軽に学んでみましょう。


学習の仕方(学習法の一つ)


 ここで述べることは何もドイツ語に限ったことではありません。何語であっても同じです。とにかく、外国語の練習では間違いを恐れてはいけません。上でも述べましたように、完璧を目指していたらいつまで経ってもそのことばを使うことができません。完璧になんかなるわけがない、と考えておく方が無難でしょう。ことばはコミュニケーションの手段であることを忘れないように。


 まず、反応の速さが大事です。たっぷりと時間をかけて、長い沈黙の後で正しい発話をしたとしても、それはコミュニケーションとは言えません。間違いを恐れないで、素早く反応する習慣を付けましょう。「知識を蓄える」ことよりも、「当該言語ができるようになる」ことの方がはるかに大切です。「何でも知っているけどほとんど何もできない」ことと「何も知らないけれどもほとんど何でもできる」こと、そのどちらを選びますか?


以下に私なりの学習法について述べます。


■予習に時間をかけない
 予習は時間がかかります。時間がかかっても、それ相応の効果があればいいのですが、効果はあまり期待できません。むしろ、復習に時間をかける方が効率的です。復習ならば予習の5分の1ぐらいの時間で済むはずです。復習する場合は「口をきちんと開いてはっきりと正確に発音する」ようこころがけてください。必ずしも大きい声を出す必要はありませんが、ごまかさないではっきりと何度も発音することが大切です。うまくいかないときは、初めは単語単位で、次に語句単位で、さらに句単位、センテンス単位というふうに拡張していくといいでしょう。その際、スピードやメロディをちゃんと守ることも大切です。このような練習を続ければ、そのうちに覚えてしまうでしょう。2回や3回の練習では上達しません。多くのことを数回(だけ)練習するよりも、必要最低限のことを10回、20回と練習する方が効果的です。


■むやみに辞書を引かない
 辞書を引く前に、自分なりに内容や文法構造などを想像し、何かを発見する喜びを味わってください。辞書を引く癖がつくと、会話のときですら辞書を引かなければ気が済まなくなります。辞書を引きながらの会話なんてあり得ませんよね。うろ覚えでもいいからどんどんドイツ語を使うことです。初めは意味なんかわからなくてもいいです。「ことばそのもの」(意味の入っている入れ物の全体)を練習する必要があります。しかし、確認するために後で辞書を引くことはいいことです。だから、辞書も1冊は持っておくべきでしょう。


■いちいち日本語に翻訳しない
 実用的な観点から言えば、「このドイツ語は日本語ではどういう表現に当たるのだろう」などと考える必要は全くありません。ドイツ語を学習するときはむしろ日本語を忘れてください。2言語を同時に処理しようとすればそれだけ負荷が大きくなります。ドイツ語学習のときは日本語や英語を忘れて、ドイツ語だけに専念しましょう。


■文字にたよらない
 日本人は文字に頼る傾向がありますね。たぶん、高校までの英語学習の癖でしょう。しかし、ことばの基本は「音」です。ドイツ語を練習するときはまず「耳で聞いて口で発音する」ことが大切です。極端な言い方をすれば、文字を全く知らなくても会話はできます。日本人の子供が日本語の文字を習う前に苦労しないで日本語を話す。これは当たり前ですね。外国語も同じです。ただ、辞書で確認するためには文字が必要ですけどね。


 授業を中心にして効率良く学習を進めてください。「苦労することが勉強だ」と勘違いしないでください。効果が同じならば楽な方がいいに決まっています。楽をしてできるようになるならそれに越したことはありません。


 ただし、以上において述べたことは「学習法」の1つ、「教授法」の1つです。自信をもってお勧めできる方法ですが、授業担当の先生のやり方と相反するようでしたら単位が取得できなくなってしまいます。その責任は負えません。結果的にドイツ語ができるようになれば誰も文句は言えないはずですけどね。


辞書について
 辞書はそれぞれ長所・短所があり、どれが一番いいかは一概に言えません。また、その長所・短所もすぐにはわかりません。それは長く使った結果わかることです。値段も大差ありません。従って、生協の店頭などで、一番気に入ったものを購入するといいでしょう。参考書は学習の目的に従って選ぶ方がいいと思います。目的というのは例えば、実用話しことば習得のため、検定試験受験のため、などです。
(小坂光一 記)