コニュニティー言語学習法
Community Language Learning (CLL)
Curranによって提唱されたCLLの特徴は、あらかじめ用意された教材が(教師側にも)全く存在せず、学習者が自ら教材を作り上げていくこと、教師の方は完全に受動的立場にあり、授業をオーガナイズはするが助言者にすぎず、基本的には、学習者に問われないかぎり何も教えないという点にある。授業の進行の第1段階の基本パターンは次の通りである。
第1段階:
1. 学習者グループが会話のテーマを決める。ターゲット言語で言えないことは母語で発話(初期の段階ではすべてがそうである)。教師が小さい声でターゲット言語に翻訳。学習者がそれをまねする。発話が長い場合は短く区切って行われる。ターゲット言語で行われた学習者の発話はテープレコーダーに録音される。一通り録音が終わってからテープが再生される。
2. ターゲット言語での発話が黒板に書かれ、その下に出発言語での逐語訳が書かれる。学習者は小グループに別れ、文構造、語順、意味などについて討論する。元のグループに戻り、発見したことを報告し合う。質問に対して教師が答える(それまでは教師はただお膳立てと翻訳をするのみ)。
3. 学習者が(教師の協力を得て)作り上げた文や文断片の発音練習。伝統的方法とは逆に、先に学習者が文や文断片を発音し、教師は後からそれを(正しく)繰り返す。それを学習者がまた、正しい発音に従って繰り返す。これは、学習者が発音しなくなるまで繰り返される。
4. 学習者は再び小グループに別れ、これまでに作った文(まだ消されずに黒板に書かれてある)に基づいて、新しい文を作る。元のグループに戻り、作った文を出し合う。教師はこれらの文を音声的に繰り返し、正しいモデルを与える。新しい表現、新しい現象が現れた場合は黒板に書く。
5. 質問したり感想を述べたりする機会が学習者に与えられる。
以上が最初の段階である。Curranは全部で5つの段階を提唱している。第2段階以降はおよそ次の通りである。
第2段階: 学習者は直接到達言語を使用し始める。
第3段階: 全学習者が少なくとも簡単な発話を苦労せずに到達言語で理解するようになる。
第4段階: 発話がさらに複雑になる。教師は、間違いが生じたとき、援助が必要なときにのみ口出しをする。
第5段階: 教師は慣用句的表現やより高等な表現方法を提示するが、それ以外の点では学習者は完全に自立するようになる。
第1段階の具体例
(教師が手順を説明したあと、学生に何かを発話させる。学生の日本語の知識はゼロなのでもちろんドイツ語で言わせ、それを教師が耳元で小さな声で日本語に翻訳、その学生にマイクを向け、その日本語を言わせ、録音)
学生A: (ドイツ語で発話。教師が翻訳)
教 師: こんなに(ささやく)
学生A: konna ni(録音)
教 師: 長くかかって(ささやく)
学生A: nagaku kakatte(録音)
教 師: 残念です(ささやく)
学生A: zan'nen desu(録音)
学生B: (ドイツ語で発話。教師が翻訳)
教 師: このことを(ささやく)
学生B: kono koto-o(録音)
教 師: 私たちの(ささやく)
学生B: watashi-tachi-no(録音)
教 師: テーマに(ささやく)
学生B: teema-ni(録音)
教 師: しましょう(ささやく)
学生B: shimashoo(録音)
学生C: (ドイツ語で発話。教師が翻訳)
(以下省略)
(一通り済んだあと、録音テープを再生。断片的な録音の繋ぎ合せでも再生すれば会話テキストになっている。それを教師がローマ字で黒板に書き、下に可能なかぎりの逐語訳を付け加える。学生は自らの発話したドイツ語と逐語訳を比べる。得られたテクストと黒板に書かれた逐語訳は次の通り)
(1) kon'nani nagaku kakatte zan'nen desu
so lange gedauert hat + und schade sein
(2) kono koto-o watashitachi-no teema-ni shimashoo
diese Sache unser Thema-zum machen(Vorschlag)
(3) moo ichido yatte mimashoo
noch einmal probieren(Vorschlag)
(4) mukoo-no hana-ga kiree-ni saite imasu
da drüben Blumen schön blühen (dabei)sein
(5) nihongo-wa totemo fukuzatsu-ni kikoemasu
Japanisch(TH) sehr kompliziert klingen
(6) sorede-mo nihongo-o narau-no-wa omoshiroi desu
trotzdem Japanisch lernen(TH) interessant sein
(7) bunshoo-ga min'na nagai desu ne
Satz alle lang sein ne
(8) kyoo-wa ame-ga futte imasu
heute(TH) Regen fallen (dabei)sein
(学習者を2グループに分け、黒板に書かれてあることを手がかりに、文構造や発音などに関して検討させる。約5分後に学生と教師との間で質疑応答。教師はなるべく聞かれたことのみに答える。)
発音練習に入る
教師: (覚えたい文、文断片を発音させる)
学生A: moo ichido yatte mimashoo(たどたどしい)
教 師: もう1度やってみましょう
学生A: moo ichido yatte mimashoo(まだたどたどしい)
教 師: もう1度やってみましょう
学生A: moo ichido
教 師: もう1度
学生A: moo ichido
教 師: もう1度
学生A: yatte
教 師: やって
学生A: mimashoo
教 師: みましょう
学生A: yatte mimashoo
教 師: やってみましょう
学生A: moo ichido yatte mimashoo
教 師: もう1度やってみましょう
・
・
・
学生B: nihongo-wa
教 師: 日本語は
学生B: nihongo-wa totemo
教 師: 日本語はとても
学生B: nihongo-wa totemo
教 師: 日本語はとても
・
・
・
(学習者を2グループに分け、新しい文を作ってもらう)
教師:(学生に授業の感想を求める)
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CLLというのは教師自らは何も教えないことに特徴がある。つまり、教師は、学習者から要求されたときにアドヴァイザーとして存在するもので、それ以外のときはオーガナイズするだけでほとんど何も言わない。しかし、必要とされるときは万能でなければならず、負担はかなり大きい。教師は出発言語とターゲット言語を完全にコントロールできなければならない。学習者が出発言語で発する発話を、それがどんな発話であれ、瞬間的にターゲット言語に翻訳できなければならない。しかも、学習者がどんなコンテクストで、どんな含みで発話しようとしているかを瞬間的に把握するのはむずかしく、正しく翻訳するのは至難の技である。さらに、翻訳された文は学習者の学習モデルとなるものであるから、完全に正しく自然なものでなければならない。また、逐語訳やそのコメントに際してはかなりの対照言語学的知識が必要である(「書いてもよい」=
„(es ist) gut, auch wenn (Sie) (es) schreiben“ など)。学習者の側には、自分たちの必要とする文を、文法事項の既修・未修に関係なく、自然な形で、自分たちの学びたいように学べるという利点がある。
この方法には決定的な条件が2つあることだけは付け加えておきたい。それは、学習者の出発言語が共通していなければならないことと教師が(ターゲット言語だけでなく)学習者たちの出発言語を完全に理解し、完全に使いこなせることである。
参考文献
Asher, James J. (1977):Learning Another Language Through Actions
Curran, Charles A. (1976):Counseling-Learning in Second Languages
小坂光一 (1988):「2つの教授法─TPRとCLL─」(『ことばの科学』第1号)
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